第2回 George Harrison『George Harrison』
George Harrison『George Harrison』(1979年)
ビートルズの活動がなくなったことによって、最初に独自の音楽を開花させた人物はジョージでした。ビートルズにいた頃は素晴らしい楽曲をたくさん作っているにも関わらず、アルバムにクレジットされるのはいつも2〜3曲。そんな抑圧から解放され、積もりに積もった楽曲たちを見事に解き放った大傑作アルバム『All Things Must Pass』はジョージの才能を世界中に知らしめることになりました。
George Harrison『All Things Must Pass』(1970年)
しかし、ジョージの傑作はそれだけではありません。
ジョージを決して侮ることなかれ。
前述のオールシングスをジョージの初期傑作だとすると、今回の顔面ジャケットで紹介する『George Harrison(邦題:慈愛の輝き)』はジョージの中期傑作に位置付けられるアルバムです。
まず、なんて見事な顔面ジャケットでしょう。緑に輝く葉っぱに囲まれて、カメラから目線を外すジョージの顔面ドアップ。素直にかっこいいですよね。ちなみにジョージはヴェジタリアンというリアル草食系男子なので、葉っぱとの相性もバッチリです。
そしてタイトルもまさかのセルフタイトル。1stアルバムだったら良くあることですが、このアルバムは8作目。おそらく、よほど気合が入っていたのでしょう。
ジョージは1974年に最初の奥さんであるパティ・ボイドと離婚しています。原因はなんと大親友のエリック・クラプトンによる略奪愛でした。ただ当時の夫婦仲はかなり冷え切っていましたし、ジョージだって浮気をしていたので、単純にジョージだけが被害者という訳ではないのですが。
そんな失意のどん底にいたジョージにも人生の転機が訪れました。ジョージは生涯の伴侶となるオリヴィアとの愛を育み、78年には再婚、そして同年に長男ダニーが誕生します。
こうして、ようやくジョージは幸福に満たされた生活を手に入れたのです。そして、そんな幸せの絶頂期にこのアルバムは制作されました。
ジョージの音楽には、美しさの中にも葛藤や怒り、時には皮肉が割と素直な形で映し出されることがあります。それが作品に深みを与えることもありますが、時には近づきがたい印象も与えてしまいます。
しかし、このアルバムではそのようなジョージの複雑な面よりも、人の傷つきやすい部分に寄り添ってくれる優しい人柄の面が大きく前に出ています。キラキラと輝くギターの音色とジョージの甘くてトロけるような歌声が見事にブレンドされ、聴くだけで他人に優しさをお裾分けしたくなってしまう。そんな素晴らしいものになっております。
アルバムの1曲目である「Love Comes to Everyone」は自分から奥さんを奪ったクラプトンにギターを弾いてもらうという懐の深さも見せつけています。というよりジョージは何よりクラプトンの才能を愛していたのでしょう。2人の奇妙な友情は時に衝突することはあれど、この後もずっと続いていきました。
売上げがいまいちだった(それでもアメリカで14位)こともあり、長らくファンの間では隠れた名盤として扱われてきましたが、徐々に評価が確立されていき、今ではジョージの最高傑作として推されることもしばしば。発売当時の音楽シーンからすると、やや時代遅れだという評価も、時が経つにつれ作品そのものの価値が認められていったということでしょう。
そして87年には後期傑作の『Cloud Nine』が見事に大ヒット!その堂々としたカムバック劇は流石としか言いようがありません。
George Harrison『Cloud Nine』(1987年)
ジョージは2001年に肺癌のため亡くなりましたが、その音楽的な功績は今も多くのフォロワーを生み続けているのです。
後に最後まで連れ添った妻のオリヴィアはこのように語っています。「ジョージは女性が好きでした。それに彼はモテました。私だけが愛されてたわけじゃない。正直、つらかったわ。」と。
駄目じゃん!!
※長男の名前はダーニと表記されることが多いですが、2014年にオリヴィアがインタビューで長男の発音はダニーだと説明しているため、ここではダニーと表記しています。