すばらしくてNICE FACEな音楽

世の中に存在する素晴らしい顔面アルバムジャケットを紹介するブログです。

第1回 Nas『illmatic』

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Nasillmatic』(1994年)

 

いろいろ悩みましたが、記念すべき第1回はヒップホップ史に燦然と輝く大名盤を紹介します。

Nas(以下 ナズ)は1974年に生まれ、ニューヨーク市クイーンズブリッジ地区で育ったラッパーです。ヒップホップの誕生は1973年ですので、ナズは小さい頃から最初期のヒップホップを実際に体験している世代なのです。

肝心のジャケットは、幼少期のナズ本人の顔にクイーンズブリッジ地区のプロジェクトが重なるという、なんとも意味深なもの。

プロジェクトとは当時の低所得者向け公営アパートのことで、規模は違いますが日本でいうと団地が割と近いかもしれません。当時のプロジェクト一帯はとても治安が悪く、暴力や麻薬が蔓延する場所でした。それと同時にマーリー・マールやラージ・プロフェッサーなど多くの有名アーティストを輩出しているヒップホップの名産地でもあります。

そのような環境の中で育ったナズはまさにニューヨーク流ストリートヒップホップの申し子として、このデビューアルバムを世に出しました。

つまり、この顔面ジャケットはナズがニューヨークヒップホップ文化の歴史を正統に引き継ぐラッパーであることを示しているのです。

当時、セールスでは西海岸のヒップホップが圧倒的な人気を誇っていました。そんな中でナズは最後のジェダイのごとく東海岸ヒップホップの期待を一身に受けていたのです。

アルバムの内容はナズの卓越したラップスキルだけでなく、ピート・ロックラージ・プロフェッサー、L.E.S、Q ティップ、DJ プレミア東海岸を代表する大物プロデューサーたちが参加したことで、信じられない程クオリティが高いアルバムになりました。

セールスは大ヒットとまではいきませんでしたが、批評家からの評価は非常に高く、辛口で知られるヒップホップ専門雑誌のソースは、このアルバムに数少ない最高評価の五本マイクを与えたのです。

現行のヒップホップに比べると若干地味に聴こえるかもしれません。しかし何度聴いても飽きないばかりか、気づけば首を縦に振りながらリズムを取ってしまう魅惑的なアルバムです。

また、ナズの歌詞をじっくり読みながら巧みな言い回しに酔いしれるもよし。当時のニューヨークを取り巻く社会問題や文化を読み込むもよし。ナズだけでなく、参加した各プロデューサーの他作品を掘るもよし。とにかく多層的な楽しみ方が出来るのも魅力です。

歴史的な超重要アルバムですので、詳しく紹介している書籍やサイトも数多くあります。もし興味があればそちらも参考にしてみてください。

 

余談ですが、実はナズの顔面ジャケットは四部作となっており、二作目の『It was Written』では成長したナズの顔になっています。

 

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Nas『It was Written』(1996年)

 

そして、三作目の『I am ...』では、

 

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Nas『I am ...』(1999年)

 

ツタンカーメンになり、

 

最後の四作目では、

 

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Nas『Nastradamus』(1999年)

 

予言者になりました。